2015年4月
結核などの再興感染症
予防接種や抗生物質などによって、過去に一度制圧された病原菌によって起こる感染症が、
病原菌の治療薬に対する抵抗性の変化や環境の変化によって、勢力を盛り返すことがあります。
これを、「再興感染症」といいます。
世界保健機関(WHO)では、「再興感染症とは、既知の感染症で、既に公衆衛生上の問題
とならない程度までに患者が減少していた感染症のうち、近年再び流行し始め、患者数が
増加したもの」と定義されています。
再興感染症の中で代表的なのは、「結核」です。
結核は、昭和の始めの頃に「労咳」などと呼ばれ、伝染性の不治の病として恐れられていま
した。その後、抗生物質のなどが開発され、患者数は年々減少していましたが、平成9年頃
から再び増加傾向になっており、薬が効きにくい「多剤耐性結核」が出現し問題となってい
ます。
昨年代々木公園で問題となり、最近対策が始まっているデング熱やマラリヤも、過去に一度
克服された病原菌による感染症です。
その他にも、伝染性が強く死亡率の高いコレラやペスト、髄膜炎菌性髄膜炎などがあります。
日本では、ペストは大正15年以降流行しておらず、近年においても発生していないようです。
コレラについては、平成7年に海外旅行帰国者に多発し300人超のコレラ患者が発生した
以外は、年に100人未満で推移しています。
人類がこれまで完全に封じ込めて根絶した感染症は、「天然痘」が唯一で、それ以外の感染症
については、直接的に効果のあるワクチンは開発されておらず、完全な治療法は確立されてい
ません。
そのため、またいつ新たな再興感染症が発生するか分かりません。従来の治療薬の効き目が
ない多剤耐性の病原菌が現れる可能性もあります。
そういった病原菌に負けないために、免疫力のある体作りを心掛けましょう。
ストップ結核ジャパンアクションプラン
世界保健機関(WHO)が2006年に発表した「ストップ結核世界計画2006-2015」は
今年最終年となり、新たに2035年を最終目標とする世界戦略を発表しております。
世界の結核患者状況は、WHOの推定では、2012年に年間で新たに860万人が結核を
発病し、130万人が命を落としているとしています。また、多剤耐性となった結核による
患者は、毎年45万人が発病し、17万人が亡くなっているとしています。
WHOが今回採択した新たな世界戦略は、2025年までに結核による死亡の75%減少、
2035年目標として、結核による死亡の95%減少を掲げました。
日本においてもWHOの計画に伴って、厚生労働省、外務省、公益財団法人結核予防会など
が協力して策定した「ストップ結核ジャパンアクションプラン」を2008年に発表してお
り、今回もWHOの戦略の動きに合わせて改定しました。
改訂版では、初めて国内対策を明記しており、世界目標に呼応し官民挙げて、東京オリンピッ
クが開催される2020年までに、日本を低蔓延国(人口10万人当たりの結核患者数10人
以下)とするとしています。
低蔓延国を目標とするのは、日本が未だ中蔓延国のためです。
先進国の多くが、人口10万人当たりの結核患者数が10人以下であるのに対して、日本は
16.1人(2013年)と高く、1年間で2万人以上の人が結核患者数として新たに登録さ
れています。他先進国で高い国は、英国ぐらいで13人(2012年)となっています。
厚生労働省の集計によると、結核罹患率は地域差があり、首都圏、中京、近畿地域等での大
都市で高い傾向が続いているとしています。
大都市の罹患率は、高い順に大阪市(10万人当たり39.4人)、名古屋市(26.5人)、
堺市(26.4人)、神戸市(24.0人)、東京都特別区(22.5人)となっています。
また、症状が発現してから早期に受診する人の割合はやや改善しているようですが、働き盛
りの人で感染性のある結核患者の約3人に1人は、発現してから2ヶ月以上経過して受診し
ているのが現状です。
「結核は昔の病気」と思われがちですが、現状は世界でも日本でもまだまだ患者が
たくさん出ています。
いつもと違う、おかしいなと思ったら、早期受診を心掛けましょう。
電話消毒は、結核菌にも極めて有効な殺菌力があります。
危惧される新興感染症
O157(病原性大腸菌)による集団食中毒が各地で度々発生します。
食中毒の原因になった大腸菌は、私たちの回りに常在するありふれた菌であり、腸内にも生息し、
本来はそれほど毒性の強い菌ではありません。
ところが、ある日突然、数千人を超える大量の感染者出す大腸菌が現れます。わずか100個程度
でも発病の可能性がある極めて毒性の強い病原性大腸菌です。
O157の他にも、O26、O111、O128などもあり、指定伝染病とされています。
これらの毒素の強い病原性大腸菌は、人の腸内に存在せず、主に牛の腸管に潜伏しています。
現代では、多くの感染症が予防・治療できる一方で、次々に新しい感染症も出現しています。
これまで知られていなかった全く新しい病原体によって引き起こされる感染症を「新興感染症」
といい、過去30年間、ほぼ毎年のように新たな病原菌が見つかっています。
前述のO157もその一つです。
他にもエイズ(HIV)やB型・C型肝炎、アメリカで発見され肺炎を引き起こすレジオネラ菌、
イギリスで発生した狂牛病、中国から流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)などがあります。
発見は1961年ですが、院内感染症で問題となるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)も
新興感染症の一つです。
昨年から話題となっている致死率の高いエボラウイルスも同じです。
O157もSARSのときも同様ですが、発生源の特定に時間がかかったり、感染経路が判らず、
あっという間に感染拡大してしまう危険性があり、人類がまだまだ非力であることを思い知らされ
ます。
こういった感染症は国レベルで危機管理の体制が取られますが、個人レベルでも、感染症に対応
するために病原体や感染症に対する知識は持つことはとても重要です。
危険から身を守る「予防」が大切です。
千倍でやっと1mmの大きさ-見えないリスク
病原性の細菌やウイルスが恐ろしいのは、ときに生死にかかわる伝染病の原因になるからです。
最近では、昨年から恐れられているエボラウイルスがありました。
さらに私たちを不安にさせるのは、細菌、ウイルスが極小で、姿や形が肉眼で見ることができない
ことです。
細菌やウイルスはミクロン単位の大きさしかありません。
細菌は、その形により球菌、桿菌、ラセン菌に分けられています。球菌の大きさは直径0.5~1μmです。
桿菌は棒状の細菌で、大きさはだいたい幅0.5~1μm×長さ2~4μmになります。ですので、千倍の
顕微鏡でやっと1mm程度に見える程度です。
ウイルスはさらに小さく、生物の最小単位である細胞を持たず、大きさは数10nm~数100nmであり、
1万倍から10万倍でやっと見える極小ものも中にはいます。
ちなみに真菌(カビ)は、大きさが3~10μm程度で、糸状の菌糸が集合して大きな菌糸体を形成し綿状
の外観をしています。
専門家は、電子顕微鏡などの特殊な装置で確認できますが、一般の人はそうもいきません。もし、病原菌
をだれでも肉眼で見ることができれば、さらに電話消毒が普及すると思うのですが・・・。
しかし残念ながら、病原菌を肉眼で見えないのが現実です。そのためいつの間にか感染力の強い菌は、
人が気づかないままあっという間に拡大し、多くの人が感染してしまいます。
細菌、ウイルスに対して、常に注意を心がけている人いる一方で、トイレを出るときに18%の人が手を
洗わないというデータがあるように、見えないから気にしていない、注意していないという人もいます。
身近でよく話題になるブドウ球菌や大腸菌、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなど
でも、自分にだけでなく周囲の人にも影響を及ぼします。
見えないからこそ、そのリスクを再認識し未然に防ぐようにしましょう。