2015年6月
生肉による感染症 他にもあります
生の肉や加熱が不十分な肉を原因とする食中毒は、E型肝炎ウイルスの他にカンピロバクター
による事例も多くあります。
これからの夏にかけて増加する傾向にあります。
カンピロバクターは、家畜、家きん、ペット、野生動物、野鳥などあらゆる動物が保菌して
います。
食用としている身近なものでは、ニワトリや牛、ブタ等などで、その腸管内に生息していま
す。
これらの肉(特に鶏肉)やレバーなどの臓器を生のまま食べたり、加熱が不十分な状態で食
べることにより感染します。
また、何らかが原因で水系がカンピロバクターに汚染された場合、集団感染に発展しやすく
なります。
1978年にアメリカのコロラド州において、水道水が汚染源となり約2,000人に集団感染
しています。このときにカンピロバクターの食中毒が世界的に知られるようになりました。
日本においても、1979年に札幌市の大型スーパーから約7,700人におよぶ集団感染が
発生しました。井戸水がカンピロバクターと病原性大腸菌に汚染されていたためでした。
その他にも、生肉などを取り扱った手や調理器具を介して、菌が広がることもありますので、
調理する際にも注意が必要です。
最近のカンピロバクターによる食中毒事例では、“鶏たたき”や“とりわさ”、“鶏刺し盛り合わせ“
などが発生源となっています。生あるいは半生の状態で食べたこと原因となっています。
感染した場合、少量の菌(100個前後)で発症し、発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、
下痢などが見られます。
子供や高齢者がかかった場合、重症化しやすいため、いっそうの注意が必要です。
カンピロバクターは、冷蔵または冷凍温度下でも生存できますが、熱に弱いため、十分に
加熱することで死滅します。
東京都の健康安全センターが行った肉団子の加熱実験では、肉団子の内部の色が変わるまで
加熱しないと、完全に菌は死滅しないことが分かっています。
また、乾燥にも弱いため、調理器具などはよく洗浄し、熱湯消毒後よく乾燥させることが大切
です。
カンピロバクターも性質さえ分かっていれば、それ程恐ろしい菌ではありません。
とりわさなど、とてもおいしいのですが諦めて、しっかり加熱されたものを食べましょう。
また楽しみが一つなくなる
厚生労働省は、飲食店などで、レバーなどの内臓を含む豚肉の生での提供を禁止しました。
動物から人に感染するE型肝炎にかかる可能性のリスクが高いためです。
3年前には、生の牛レバーを食べたことが原因で集団食中毒が発生したことを受けて、
牛レバーの生での提供が禁止されています。こちらは、腸管出血性大腸菌(O-111)
が原因によるものでした。
肝炎は、肝臓に炎症が起こり、肝細胞が破壊される病気です。お酒の飲みすぎが原因のこと
もありますが、ウイルスが原因による肝炎が圧倒的に多くなっています。
肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型があり、今回その中のE型肝炎ウイルス
が問題となりました。
A型とE型は、感染経路が似ており、主に飲料水や食物を介して感染します。
経口感染でウイルスがいったん体内に入ると、胃の中の酸に負けず腸まで届き、そこから
血液の中に侵入して肝臓に到達し、肝細胞に感染。肝臓の中で増殖して、肝炎を引き起こ
します。
A型肝炎ウイルスは、日本国内の衛生環境が良くなったので、感染者は激減していますが、
衛生状態の悪い国への渡航により感染してしまうことがあります。
E型肝炎ウイルスは、近年国内で増加しており、豚やイノシシ、シカなどの生肉を食べて
感染していることがわかってきたため、今回は豚の生肉だけですが、提供禁止になってし
まいました。
A型は、一度感染すると抗体ができ、再び感染することはありません。またワクチンが
開発されているため、予防が可能です。
しかし、E型は感染しても抗体が短時間で消滅してしまうため、再感染の恐れがあり、
ワクチンも開発されていません。
また、A型より感染率は低いのですが、いったん感染するとA型よりずっと重症化します。
急性肝炎が悪化して劇症肝炎になる確率も、A型は0.1%ですが、E型は1.0%と高く
なります。
A型もE型も十分に焼くあるいは煮ることで肝炎ウイルスは死滅し、感染の危険性はなく
なります。
しかし、生レバーが食べられなくなったことは、非常に残念でなりません。
また一つ、食の楽しみがなくなりました。
三大夏風邪のひとつの「手足口病」
口や手、足などに水疱性の発疹が現れる急性ウイルス性感染症の「手足口病」が西日本を中心
に流行しており、関東地方でも流行の兆しがあります。
手足口病は、夏季に発生しやすい感染症ですが、今年は例年より早く流行り始めているようです。
発症するのは、5歳以下の乳幼児が中心で9割前後を占めており、それ以上の年齢では、既に
感染を受けている場合が多く、発症するのは稀です。
感染すると、3~5日の潜伏期間を経て、口腔粘膜や手、足に2~3mmの水疱性の発疹が現
れます。
原因となるウイルスは、「エンテロウイルス」です。
エンテロウイルスは、腸管で増殖するウイルスの総称で、67種類が存在します。
その中のコクサッキーA16、A10ウイルスやエンテロウイルス71などが手足口病の原因
ウイルスとなります。
ヘルパンギーナや無菌性髄膜炎などもエンテロウイルス種による感染症です。
また、傷んだ貝類を食べて罹るとされるA型肝炎ウイルスは、海に流された汚水中のエンテロ
ウイルスが原因です。ハマグリやカキは、汚染された水から食物を取ると同時にエンテロウイ
ルスが蓄積されるようです。
感染経路は、主に飛沫感染、接触感染で、便中に排泄されたウイルスによる経口感染の場合も
あります。
手足口病に有効なワクチンはなく、予防できる薬もありませんが、罹ってもほとんどが軽い症状
で済むことから、免疫力をつけるという意味で、感染してはいけない病気ではないのかもしれません。
新興感染症の感染拡大
韓国で感染拡大が懸念されている中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)は、ウイルス性の
感染症です。
2012年に英国が、中東に渡航暦のある重症肺炎患者から発見したことを世界保健機構(WHO)
に報告し、知られることとなりました。同年にサウジアラビアで最初に確認されています。
原因となるウイルスは新種のコロナウイルスで、一般的な風邪や2002年から03年に中国
や香港においてまん延したSARS(重症急性呼吸器症候群)と同じウイルス類です。
SARSでは、数千人の感染が拡大し、750人以上が命を落としました。
MERSは、WHOによると、現在までに世界で累計1,161人が感染し、少なくとも436人
が死亡したとしています。
SARSは感染力が強かったため急激に拡大しましたが、MERSは感染力が弱く、人から人
への感染は限定的といわれています。しかし、致死率は非常に高い状況のため危険なウイルス
に変わりありません。
感染経路は、飛沫感染か接触感染かはっきりしたことは判明していないようです。
MERSに感染すると、2~15日の潜伏期があり、その後急性の重症な呼吸器症状を発症し
ます。発熱、せき、息切れや呼吸困難を伴い、ほとんどの患者が肺炎を起こすということです。
また、多くの患者が下痢などの消化器症状も伴うようです。
但し、初期症状が他の呼吸器感染症と似ているため、早い時期にMERSと診断することは
難しいとされています。
2012年には、サウジアラビアを中心に中東で感染が拡大、患者数が急増しました。
アメリカや東南アジアでも中東に渡航暦のある人が感染していましたが、感染は限定的でした。
今回韓国では、感染が5月20日に確認されてから、感染者数は25人に拡大し、2人が死亡
しています。最初の感染者が病院を転々とする間に感染が広がっており、拡大要因は院内感染
といわれております。
現在、日本での確認はされておりませんが、厚生労働省は、注意喚起し警戒しています。
MERSに対する特別な治療薬やワクチンは無いため、感染拡大を防ぐためには、予防
が非常に大切になります。